気温が上昇し始める季節、SNSで話題の簡単レシピが引き起こす危険性についてご存知でしょうか。特に「鶏ハム」と呼ばれる人気メニューは、調理方法を誤ると深刻な食中毒を引き起こす可能性があります。本記事では、安全な鶏ハムの作り方と食中毒予防のポイントをわかりやすく解説します。
初夏に急増する食中毒の危険性
日中の気温が20度を超える日が増えると、食中毒のリスクも急激に高まってきます。食品衛生責任者の花山祐氏によれば、「厚生労働省の令和5年食中毒発生状況から見ても家庭を摂食場所とする食中毒事件は夏季(6月から9月)に増加の傾向が見られます。気温と湿度の上昇に伴い、細菌の繁殖が促進されやすいのが原因です」とのこと。
統計によると、令和5年の細菌性食中毒は8月に患者数が突出しており、全体の95%を占めていました。これは気温と湿度の高さが細菌の増殖を促すためです。中でも家庭での食中毒は、症状が軽いケースや発症者が少ないことから「風邪」と誤認されることも多く、実際の発生数は統計よりもさらに多いと考えられています。
家庭での食中毒の主な原因菌としては:
- カンピロバクター(鶏肉に多く存在)
- サルモネラ属菌(卵や肉類に存在)
- 黄色ブドウ球菌(手指から食品へ付着)
- 腸管出血性大腸菌O157(肉類に存在)
特に鶏肉は、健康な鶏でもカンピロバクターが高頻度で検出されるため、適切な調理が極めて重要です。
SNSで広がる危険なレシピの実態
最近では、SNSの普及により「自称・料理研究家」が発信するレシピが急増していますが、その中には食の安全性に問題のあるものも少なくありません。花山氏は「きちんと勉強をなさって発信している人がほとんどだとは思いますが、実際には家庭調理をそのままアップするような例も多く、危険を感じている」と警鐘を鳴らしています。
危険性が指摘されている調理法には:
- 炊飯器を使った肉料理の調理(メーカー推奨外の使用法)
- ポリ袋やラップを使った低温調理(耐熱性や有害物質の溶出が懸念)
- 「サッと茹でるだけ」という鶏肉の調理法(加熱不足の危険性)
- 根拠のない保存期間の提示(「1週間持つ」など)
これらのレシピは手軽さや時短を売りにしていますが、食品衛生の観点からは大きな問題をはらんでいます。特に「鶏ハム」と呼ばれる調理法では、加熱が不十分なまま提供されるケースがあり、その危険性は見過ごせません。
鶏ハムに潜むカンピロバクター感染のリスク
実例として、あるママ友主催の持ち寄りランチ会で提供された鶏ハムを食べた女性が、激しい腹痛に見舞われた事例があります。この鶏ハムは「半生のように見えた」とのことで、おそらくカンピロバクターによる食中毒だったと考えられます。
カンピロバクターに感染すると、以下のような症状が現れます:
- 下痢、腹痛、発熱(主な症状)
- 悪心、嘔吐、頭痛、悪寒、倦怠感
- 潜伏期間は2~7日間(症状が出るまで時間がかかる)
特に注意すべきは、カンピロバクターに感染した数週間後に「ギラン・バレー症候群」という神経疾患を発症するリスクがあることです。これは手足の麻痺や顔面神経麻痺、呼吸困難などを引き起こす深刻な合併症です。
カンピロバクターは少ない菌数(数百個程度)でも感染する可能性があり、症状が軽くても決して軽視できない食中毒菌なのです。
安全な鶏ハムの作り方と調理のポイント
では、安全に鶏ハムを調理するにはどうすればよいのでしょうか?食品安全委員会や専門家が推奨する安全な鶏ハムの作り方をご紹介します。
正しい鶏ハム調理法:
- 中心温度を75℃以上で1分間以上加熱する(必須条件)
- 鶏肉の中心まで確実に火を通す(色の変化で確認)
- できれば温度計を使用して内部温度を確認する
食品安全委員会のレシピでは、鍋にお湯を沸かし、皮をはがした鶏むね肉を入れ、やや強火で加熱します。沸騰したら裏返し、再度沸騰するまで加熱します。その後、火を止めて落としぶたをし、ふたをして冷めるまで放置します。この方法で中心までしっかり火が通り、しっとりとした食感の鶏ハムができあがります。
また、別の安全な方法として:
- 食品保存袋に調味料と鶏むね肉を入れる
- 70℃のお湯に浸す
- 中心温度が70℃になるまで加熱し、その温度で5分間保持する
この方法では温度計を使用して内部温度を確認することが重要です。管理栄養士の矢崎海里氏は「この時点で火を止め余熱で火を通すレシピもありますが、試したところ中まで火が通らず、生でした」と指摘しています。
食中毒を防ぐための基本的な対策
カンピロバクターなどによる食中毒を防ぐため、調理時には以下の対策を徹底しましょう:
1. 十分な加熱の徹底
- 鶏肉の中心温度は75℃以上で1分間以上加熱
- 温度計を使用して確認することが理想的
- 肉の色が変わるまで確実に加熱
2. 調理器具・容器の使い分け
- 肉用のまな板や包丁は他の食材と分ける
- 生肉専用の容器を用意する
- 調理器具は使用後すぐに洗浄・消毒
3. 手洗いの徹底
- 生肉を扱った後は必ず手を洗う
- 石鹸を使って30秒以上しっかり洗う
- 調理の工程間でも手洗いを忘れない
4. 二次汚染の防止
- 生肉から他の食材への菌の移行を防ぐ
- 調理済み食品と生肉を離して保存
- 冷蔵庫内での配置にも注意
食中毒は適切な対策を講じることで防ぐことができます。特に夏場は細菌が増殖しやすい環境になるため、より一層の注意が必要です。
まとめ:安全な食生活のために
SNSで話題のレシピに飛びつく前に、その安全性を確認することが大切です。特に鶏肉料理においては、中心部までしっかり加熱することが食中毒予防の基本です。
花山氏は「現在の食鳥処理の技術では食中毒菌を100%除去することは困難です」と指摘しています。完全なゼロリスクは難しいものの、正しい調理法と衛生管理を心がければ、美味しく安全な鶏ハムを家庭でも楽しむことができるでしょう。
健康を守るためにも、「簡単・時短」だけでなく「安全」を最優先にした調理を心がけましょう。美味しい料理は、安全があってこそ真の価値があるのです。
参考情報:
フォーザスタイル「この鶏、半生じゃない?」自称・料理研究家ママ友が作った「鶏ハム」がヤバすぎる。危険レシピに潜むカンピロバクターの危険【専門家警笛】
https://forzastyle.com/articles/-/74327
食品安全委員会「カンピロバクターによる食中毒にご注意ください」
https://www.fsc.go.jp/sonota/e1_campylo_chudoku_20160205.html
ベネッセ「しっかり加熱&しっとりで食中毒防止の鶏ハムレシピ」
https://39.benesse.ne.jp/style/writer/2784/housework/content/?id=60621
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