鰹の生節(なまぶし)は、三重県東紀州地域、特に尾鷲市に伝わる伝統的な保存食です。一度だけ燻製した柔らかな食感と香ばしい風味が特徴で、様々な料理に活用できる万能食材です。地元では「くき漬け」と合わせる食べ方が定番ですが、アレンジ次第で和洋中どんな料理にも合います。この記事では、鰹の生節の特徴と様々な美味しい食べ方をご紹介します。
鰹の生節とは?その特徴と魅力
鰹の生節は、三枚におろしたカツオを薬草などと一緒に約2時間ゆでた後、ピンセットで丁寧に骨を抜き、サクラやカシの木の煙で約3時間いぶして作られる加工品です。通常の鰹節が燻製の工程を10~15回繰り返し、さらにカビ付けや天日干しを行うのに対し、生節は一度だけ燻製するため水分を保っており、手でも簡単にちぎれる柔らかさが特徴です。
東日本では「なまり節」とも呼ばれますが、三重県では「生節(なまぶし)」と呼ばれています。尾鷲市では100年以上の伝統があり、痛みやすいカツオを保存するための知恵から生まれた食材です。
生節と鰹節の違い
生節は水分を40%程度含み、鰹節よりも柔らかい食感です。鰹節がカチカチと硬く、主にダシをとるために使われるのに対し、生節はそれ自体を料理の具材として食べる点が大きく異なります。
また、尾鷲の生節の特徴として、初夏(初ガツオ)は脂が少なくあっさりとした味わい、秋口(戻りガツオ)は脂がのっていてしっとりとした食感と、時期によって異なる味わいを楽しめる点も魅力です。
三重県尾鷲の伝統的な生節作り
尾鷲市にある大瀬勇商店は明治35年創業の老舗で、100年以上にわたり伝統的な方法で生節を製造しています。最盛期には数十軒あった生節製造店も、現在では2軒のみとなり、貴重な伝統食となっています。
四代目の大瀬勇人さんは「食べてみたい、欲しいという人がいる限り、守っていきたい」と昔ながらの製法を守り続けています。製法には地元尾鷲の自然の恵みも活かされており、燻しに使う植物も尾鷲の山から調達し、尾鷲の水と尾鷲産の桜やウバメガシの薪を使うなど、地元にこだわった製品作りが行われています。
鰹の生節のさまざまな美味しい食べ方
鰹の生節は様々な食べ方で楽しめる万能食材です。地元の定番から創作料理まで、多彩な食べ方をご紹介します。
地元尾鷲の伝統的な食べ方
尾鷲地方では、地元特産の「くき漬」(ヤツガシラの茎を塩と赤しそで漬けたもの)と合わせて食べるのが定番です。薄くスライスした生節とくき漬けを和え、おろし生姜と醤油をかけて食べると、ご飯がどんどん進む一品になります。
また、簡単なアレンジとして、生節を3mmくらいにスライスして熱々のご飯にのせ、刻んだキュウリや生姜をのせて醤油をたらして食べる方法も地元では親しまれています。
手軽に楽しめる食べ方
マヨネーズとの相性抜群
薄くスライスして七味マヨネーズをつけて食べるだけでも、絶品のおつまみになります。マヨネーズの濃厚さと一味唐辛子のピリ辛感が生節の風味とよく合います。
ポン酢と大根おろしで
ポン酢と大根おろしで食べると、生節の燻製の風味とポン酢のさっぱり感が絶妙にマッチします。さっぱりとした味わいが好きな方におすすめです。
チーズと合わせて
生節にケチャップで軽く味付けし、チーズをのせてレンジで20秒ほど加熱すると、チーズがとろけて絶品おつまみに変身します。
料理への活用法
パスタに活用
生節はパスタの具材として抜群の相性を誇ります。特にペペロンチーノは、生節の旨味がパスタに絡み、お酒にもバッチリ合う一品になります。
ホットサンドの具に
生節、エリンギ、ピクルス、マヨネーズを混ぜ合わせたものを食パンで挟み、青じそとチーズを加えてホットサンドにすると、絶品サンドイッチになります。
サラダのトッピングに
生節をほぐしてサラダにトッピングすれば、タンパク質と旨味がプラスされた栄養満点のサラダに仕上がります。特にニース風サラダのトッピングにすると、見た目も華やかな一品になります。
お味噌汁のダシと具に
生節は味噌汁のダシとしても、具としても使える万能食材です。大根や人参、玉ねぎなどの根菜との相性が抜群で、ダシも出て具にもなる二度美味しい使い方ができます。
おかず味噌の材料に
生節をこうじ味噌、塩麹、砂糖、酒、みりんと混ぜて煮込む「おかず味噌」は、ご飯が止まらなくなるほど美味しい一品です。冷蔵庫に常備しておくと重宝します。
季節の野菜と一緒に
春はタケノコ、イタドリ、フキなどの山菜と一緒に炊いたり、夏は茎漬けと食べたりするなど、季節の食材と合わせることで四季折々の味わいを楽しめます。
おすすめアレンジレシピ
生節と青じそのホットサンド
材料(1人分)
- かつおの生節 40g(角切り)
- エリンギ 1/2本(角切り)
- ピクルス 10g(粗みじん切り)
- マヨネーズ 20g
- 食パン 2枚
- マスタード 適量
- 青じそ 4枚
- スライスチーズ 2枚
- バター 10g
- オリーブ油 適量
- 塩・こしょう 各適量
作り方
- フライパンにエリンギ、オリーブ油、塩を入れてさっと炒めます
- 炒めたエリンギとかつおの生節、マヨネーズ、ピクルスを混ぜ合わせ、塩・こしょうで味を調えます
- 食パンにマスタードを塗り、青じそ、(2)、チーズをのせてサンドします
- フライパンにバターを熱し、サンドイッチを入れ、蓋をして中火で片面1分ずつ焼きます
- 半分に切って盛り付けます
鰹生節のペペロンチーノ
材料(1人分)
- パスタ 100g
- 鰹生節 100g
- オリーブオイル 適量
- 青ネギ 適量
- 醤油 小さじ1
- にんにく 1かけ
- 輪切り唐辛子 1本分
作り方
- 鰹の生節はほぐし、青ネギは小口切り、にんにくはみじん切りにします
- たっぷりのお湯に塩を入れ、パスタを茹でます
- フライパンにオリーブオイルをひき、にんにく、唐辛子を香りが立つまで炒め、生節とパスタの茹で汁を入れて乳化させます
- パスタを加え、醤油で味を調え、よく混ぜ合わせたら皿に盛り、青ネギをちらします
自家製で楽しむ生節の作り方
市販の生節を購入できない場合でも、かつおの刺身が手に入れば自宅で簡単に生節風の加工品を作ることができます。
材料
- かつおの刺身(さくの状態で) 2本
- 塩 小さじ2
- 酒 大さじ1と1/2
作り方
- かつおのさくに塩を全体にふりかけ、15分ほどおいて塩をなじませます
- 表面の水分を軽くふき取り、酒をまわしかけて蒸し器で15分ほど蒸します
- 蒸し上がったら粗熱を取り、刺身のように切って食べたり、ほぐして料理に使用します
自家製の生節は、市販品よりもしっとりとした口当たりで、刺身とは違った美味しさが楽しめます。おろし生姜、醤油、オリーブオイルをかけて食べるのがおすすめです。
生節を楽しむための保存方法
市販の生節は冷蔵庫で保存し、早めに食べきるのが基本です。自家製の場合は、冷蔵なら3~4日、冷凍なら1~2ヶ月が目安となります。冷凍する場合は、食べ切る分量に小分けにして保存すると便利です。
まとめ:三重のソウルフード「生節」を日常に取り入れよう
三重県東紀州地域の伝統食「鰹の生節」は、その独特の風味と使い勝手の良さから、様々な料理に活用できる万能食材です。伝統的な食べ方から現代風のアレンジまで、多彩な楽しみ方ができるのも魅力の一つです。
かつては保存食として重宝された生節ですが、現代では「日持ちする美味しい食材」として、また「手軽に使える高タンパク食材」として見直されています。ぜひ一度、三重の生節を味わい、あなたのオリジナルの食べ方を見つけてみてはいかがでしょうか。
参考情報
テル鮮魚 https://www.terusengyo.com/ct_namaribusitoha.html
にほんものストア https://shop.nihonmono.jp/blogs/recipe-kawase/recipe1
尾鷲市 https://www.city.owase.lg.jp/owatabi/0000017519.html
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